さる3月16日,30日は、保育園児童の歯科検診の日でした。
開業以来、嘱託歯科医として毎年行なっている検診です。
西宮市苦楽園にある、
アイリスプライベートスクール
https://www.iris-child.com/shukugawa.html
の運営する、
『夙川いぶき保育園』『ルミエール』『ミルティーユ』
の3園の児童(0歳〜6歳)を毎年3月に検診させて頂いております。
歯科健診では、主に以下の点に留意して検診を行っております。
①虫歯の有無
②歯肉炎の状態(歯垢の付着状態)
③顎関節
④歯並び、噛み合わせ
⑤口腔内、口腔外の異常所見の有無
まず虫歯があれば、これ以上進行しないように早めに歯科医院を受診して虫歯を治す必要があります。(早期発見,早期治療)
歯並びや噛み合わせの異常があれば、早期の矯正治療を行い、綺麗な歯並びに誘導する必要があります。(早期の咬合誘導)
健診の結果は『歯科検診結果のお知らせ』ということで園を通じて保護者様に通知し、早期の受診を促しております。
健診していつも感じることは、
虫歯が非常に少ない
ということです。
日々診療をしていても、私が大学を卒業した2001年ごろと現在を比べると、成人,児童共に虫歯が減少傾向にあるのではないかと感じます。
私の感じている感覚が実際どうなのか、公的なデータと照らし合わせて、疫学的な考察を行いたいと思います。
厚生労働省により6年に一度行われる、
歯科疾患実態調査
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/62-28-02.pdf
という調査があります。
全国の各地区から抽出された、満一歳以上の世帯員を対象とし、
歯や口の状態、歯を磨く頻度、歯や口の清掃状態、フッ化物応用の経験の有無、顎関節の異常、歯の状況、補綴(被せ物、詰め物)の状況、歯肉の状況、歯列、咬合の状況
などについて調査を行うものです。
この調査の結果によると、虫歯の発生割合は下図のように減少傾向にあります。
厚生労働省:歯科疾患実態調査より引用
2016年のデータで、全国平均で5歳時点でのう蝕の発生割合は39.0%ですが、2023年の現在であればもう少し下がって、30%くらいではないかと予想されます。(あくまで私見です。)
そして、毎年歯科健診に行っている、アイリスプラベートスクールの2017年(H29年)の4歳児の検診結果を示しますと、
19人中1人ですから、発症率は5.26%です。
先に述べた、虫歯の発症率の全国平均はH28年で39%であることを考えますと、(4歳児5歳児の違いがありますが)
西宮市(苦楽園地区)の虫歯発症率は全国平均の1/7と極めて低い事がわかります。
また、下図は全国の一人当たりの虫歯数です。
(上記の発症率の全国データが無かった為、発生本数のデータとしています。データが古い為正確な比較にはなりませんが、参考まで)
首都圏、東海地区、関西地区、広島県は全国平均よりも低い傾向にありますが、
西宮市は文教住宅都市宣言をしていることから口腔衛生意識も高く、保護者様の虫歯の予防意識も高いと考えられます。
従って、全国平均の7分の1(う蝕の発生率5%)という、素晴らしい結果が出ているものと考えられます。大変喜ばしいことと思います。
そして、そもそも、『どうすれば虫歯にならないか?』ということですが、
虫歯予防の基本的な考え方は、昔から以下の三つのことが考えられてきました。
①プラークの除去;歯磨きを行い、砂糖を歯の表面に残さない
②砂糖の摂取を控える(シュガーコントロール)
③フッ素を歯面に塗布する(フッ素の摂取状況)
以下に各論を述べます。
①歯磨きを食後すぐに行うこと(歯垢;プラークを除去してミュータンス菌をお口の中から除去する)
約65年前、昭和の時代から言われている、3ー3ー3運動が1番の予防法と思います。すなわち、
『1日3回、食後3分以内、3分以上磨きましょう』という考えです。
食後30分程度、少し間を開けて歯磨きをした方が良い、という3305運動等の考えもありますがとにかく砂糖を歯の表面に付着した状態にしないことが重要です。
歯磨きの際に上記のような歯垢染色液を使えば、下記のようにどこが磨けていないかわかります。
特に虫歯の好発部位である、
①歯と歯の間
②歯と歯ぐきの境目
③奥歯の噛み合う面(裂溝;歯のみぞ)
に食べかす(プラーク)を残さないことが重要です。
また、仕事柄(例えば長距離運転のお仕事をしている方)歯を磨く時間がないという方は、キシリトールガムなどを食後にとり、ミュータンス菌の活動を抑えることが望ましいと考えられます。
詳しくは以下のホームページ等を参考にして下さい。https://www.lotte.co.jp/products/brand/xylitol/about/
②砂糖の摂取を控える、お口の中を酸性にしない
人間やはり嗜好品というものも必要ですから「一生おやつを全く食べない!」わけにはいかないと思います。
ただし、虫歯予防のためには、
時間を決めて食べること
ダラダラ食いはしないこと
酸性度の強い飲料;特に炭酸飲料などを断続的に飲まないこと
が重要です。
以下は 食事(おやつ)の回数とお口の中のphの変化を表したグラフ(ステファンカーブ)です。
人間の唾液は、1日あたり1.5l分泌されており、お口の中を中性に保つ作用(緩衝作用)があります。
朝昼晩、規則正しい食生活をし、食後すぐ歯磨きする方のお口の中は、唾液の働きによって中性に保たれるため、エナメル質の臨界phである5.5を下回ることはなく、歯は脱灰されません。
逆に時間を決めずに不規則に間食したり、酸性度の高い飲み物、砂糖を多く含有する飲料を飲んだりしている方のお口の中は常に酸性に傾き、歯が脱灰され続け、ついには脱灰が起きます。(初期の虫歯の発生)
自分自身が1日の中で『砂糖』をいつ、どれくらいの間隔で摂取しているのか、一度考えてみるのも予防の一つと思います。
上記はよく販売されている飲料にどれくらいの砂糖が入っているかを示しています。
上記は歯が溶けやすい食べ物、飲み物です。
砂糖の量も気をつけなければいけませんが、それ以上に酸性の度合い(ph)についても考えましょう。
③フッ素を歯に塗布する
フッ素は歯に取り込まれて歯表面のハイドロキシアパタイト構造をフルオロアパタイト構造に変え、歯の質を強くする作用があります。
また、
歯自体を酸に対して強くすること以外にも、
酸によって溶けた歯を再石灰化する作用、
虫歯菌が酸を作ることを抑制する作用、
があります。
歯の一番外側は、エナメル質という組織で出来ています。
エナメル質はハイドロキシアパタイトという結晶構造の集合体ですが、ミュータンス菌の出す酸、や酸性度の強い飲物に溶けやすい性質があります。
以下はハイドロキシアパタイトの化学構造式です。
Ca10(PO4)OH2
フッ素イオン(Fー)が
ハイドロキシアパタイト;Ca10(PO4)OH2に取り込まれ、
フルオロアパタイト;Ca10(PO4)FxOH2-xに変化し、
耐酸性が向上します。
結果、ミュータンス菌の産生する酸に対して強くなり、歯が溶けることを抑制します。
最近はスーパーやドラッグストアなどで各メーカーから様々なフッ素入り歯磨剤が販売されています。
子どもさんだけでなく、大人の方も、フッ素入歯磨き粉を購入して、毎日使うと良いでしょう。
以上、昨今のう蝕の発生状況及び虫歯の予防法に関して、私の思うことを述べさせて頂きました。
こういった知識を患者の皆様に発信、啓蒙することで、微力ながらも地域の虫歯予防の一助となればと思います。
最後に、結語として、
健康で綺麗な歯並びはお子様への最高のプレゼントです
小児期の健康な歯と歯並びは、そのまま大人になっても維持されることが多いです。逆に小児期のう蝕、歯列不正を放置すれば、成人になっても歯科疾患で困る事が多いと考えられます。
事実、80歳で20本の歯が残っている方の中に、歯列不正(特に開咬、反対咬合)は極めて少ない、というデータがあります。
これは逆に考えれば、
「小児期の歯列不正のない健康な歯並びが,その後の歯の保存に大いに影響している」と言えると思います。
お子様も、また保護者様もぜひ一度お口の健康、歯の健康に関して考えて頂き、
虫歯予防の意識
早期発見、早期治療の意識
を持って頂ければ,と思います。