症例⑤ 早期矯正治療の一例(永久歯列完成前からアプローチし、正常咬合に誘導できたケース)

2023年10月9日 月曜日

当院では、開業以来、矯正専門医の指導の下、小児矯正(咬合誘導)、成人矯正に取り組んで参りました。

特に小児期からの矯正治療を推奨しております。

すなわち、

 

不正咬合が判明してから矯正治療を始めるのではなく、不正咬合が始まりそうなまさにその時に対処し、正しい噛み合わせに導く、早期の矯正治療(咬合の誘導)

参考文献:「GP・小児・矯正が共に考える実践早期治療 子供の育ちをサポートするために」監著:関崎和夫・高橋貴喜美子・有田信一・里見優

 

という考え方です。

 

なぜ、なるべく早い時期での矯正治療が必要なのか?

その理由についてご説明します。

 

一般的に、子供が成長していく中で、全身の器官や機能は、個々別々の発達をしていきますが、

この発達・発達していく特性を表した考え方として、

「スキャモンの発達・発育曲線」
というものがあります。
人間の成長のパターンは以下の4つのパターンに分類されます。

①リンパ型(胸腺、リンパ節、同質性リンパ組織)

免疫力を向上させる扁桃、リンパ節等のリンパ組織の発達です。
生後から12、13歳頃までにかけて急激に成長し、大人のレベルを超えますが、思春期すぎから大人のレベルに戻ります。

②神経型(脳、脊髄、視覚器、頭径)

リズム感や体を動かすことの器用さを担います。出産直後から急激に発達し、4、5歳で成人の約80%にも達します。

矯正治療においては上顎(頭蓋骨)の成長パターンはこれに相当します。

③一般型(全身の計測値(頭径を除く)、呼吸器、消化器、腎、心大動脈、脾、筋全体、骨全体、血液量)

一般型は身長・体重や肝臓、腎臓等の胸腹部臓器の発育を示します。
特徴は幼時期までに急速に発達し、その後は次第に緩やかになり、二次性特徴が現れる思春期に再び急激に発達します。思春期以降 に再び発育スパートが見られ大人のレベルに達します。

矯正治療においては下顎(下顎骨)の成長パターンがこれに相当します。

生殖器系型(睾丸、卵巣、副睾丸、子宮、前立腺など)

生殖器系型は男児の陰茎・睾丸、女児の卵巣。子宮などの発育です。
小学校前半までは僅かに成長するだけで、14歳あたりから急激に発達します。生殖器系の発達で男性ホルモンや女性ホルモン等の

性ホルモンの分泌も多くなります。

 

つまり、人間は赤ちゃんの時期から成人まで、成長するのですが、骨格の成長、脳の成長、免疫系の成長、生殖器の成長、それぞれの成長のスパートは違う、ということです。

そして、

下のグラフは、「スキャモンの発達、発育曲線」を参考に作成した、上顎骨の成長グラフです。

 

上顎骨は神経系の発育パターンをたどりますので、だいたい10ー12歳でその成長は成人と同じレベルに到達します。つまりそれ以降、

中学生くらいになると上顎の骨は変化しにくい、矯正治療が難しくなる

と言えます。

従って、

成長期前の顎の骨が柔らかく、骨及び歯を動かしやすい時期

(小学2年生〜6年生の間)に矯正治療を始めた方が良い

と言えます。

 

 

 

 

以下に当院の患者様で、早期(小学4年生(10歳))から矯正治療を開始したケースを示します。

 

 

永久歯が生えそろう前(混合歯列期)から早期矯正治療を行い、成長と共に正常な歯並びに導けた一例

 

⚫︎来院時年齢:10歳

⚫︎性別:男児

⚫︎歯列不正の種類:叢生および、上顎右側 側切歯の交差咬合

⚫︎主訴:歯並びが気になる

(初診時は患者、保護者共に歯列不正に関して、あまり自覚はしておられなかったが、十分説明を行い、治療開始することに同意された)

⚫︎初診時の口腔内写真(2017年12月撮影)

⚫︎初診時のレントゲン写真(2017年12月撮影)

 

⚫︎お口の中の問題点、および今後予測されること

全体的に顎が狭く、かつ歯の大きさが標準より大きいため、歯並びが叢生(ガタガタの歯並び)の状態である

右上の前歯が反対の噛み合わせになっていて、正しい噛み合わせが出来ていない

→いわゆる八重歯になり、歯並びがガタガタのままになる、顎の骨もずれたまま成長して顎関節症などを起こす可能性がある

と予想されました

⚫︎顔貌と歯並びの関係性、問題点

 

⚫︎診断:上下顎の叢生および上顎右側側切歯の交差咬合

⚫︎永久歯の完成前に矯正治療を行う理由

先に述べた、スキャモンの成長発育曲線から考えて

上顎骨は12歳前までに成長を終える(上顎骨に存在する正中口蓋縫線と呼ばれる、骨と骨をつなぐ線が骨化して閉じてしまう)ため、

その前に矯正力をかける必要がある

 

 

⚫︎具体的な治療方法、時期、装置

 

①緩徐拡大装置(シュワルツの装置)

まずは比較的受け入れやすい、取り外し式の矯正装置(いわゆる床矯正装置)を用いて上顎骨の側方拡大と、歯並びを整えていきます。

2018年1月(10歳)

参考文献:「ホームドクターによる 小学校2年生までに始める拡大床治療」

次に、右上の2番目、側切歯が内側に入ったままで外へ出にくいため、固定式装置を選択しました。

②パラタルアーチ(指様弾線を付与したもの)

2019年4月(11歳)

右上の2番目の歯を外側に押しています

③急速拡大装置

2020年5月(12歳)

右上の2番目の歯が外に出ました。(交差咬合の解消)

次に、上顎の左右の骨を広げて上顎自体を大きくするために、

固定式「急速拡大装置」を用いました。

この装置の効果が期待できる年齢は、左右の顎のつなぎ目の正中口蓋縫合が自然に開くことができる年齢を考えると、思春期くらいまでと言われています。

 

④マルチブラケット装置の装着

2021年3月(13歳)

上顎骨が横に広くなり、歯列弓周長が長くなりましたので、

歯並びを綺麗に配列するため、マルチブラケット装置を装着しました。

 

2022年12月(14歳)

マルチブラケット装置、装着後1年9ヶ月経ち、上下の歯並び、噛み合わせが整いました。

 

 

⑤アライナー/Asoaliner (いわゆるマウスピース矯正)

2023年1月(15歳)

患者さんの希望によりアライナーを装着して、歯列の最終調整を行なっております。

 

 

以上、治療の流れを時系列で示します。

 

 

 

上記の治療には約5年という長期の期間を要しました。

(長期にわたる矯正治療にご理解、ご協力頂きましたこと、この場をお借りして御礼申し上げます。)

よかった点としては、問題が生じた時点でアプローチすることにより、非常にスムーズな治療を行え、顎関節にも負担なく、成長と共に咬合を確立できたことだと思います。

この患者さんは高校入学前に、非常に綺麗な、安定した噛み合わせを得ることができました。

 

もし成人してから治療していたらどうなっていたでしょうか?

5年は掛からないとしても、ある程度の期間はかかったでしょうし、

先に述べた『スキャモンの成長、発育曲線』

によれば下顎骨、顎関節は20歳くらいには完成しており、歯列矯正により顎関節症状を引き起こしていたかもしれません。

 

以上長文になりましたが、

「歯列の問題が発生した時点で、各成長ステージに応じた矯正に装置を適用、速やかに解決し、綺麗な歯列に導くことは、その後のお口の健康に大いに寄与する」

と言えます。

 

当院は、

綺麗な歯並びはお子様への最高のプレゼント

をモットーとし、日々の矯正臨床に取り組んでおります。

 

お子様、もしくは成人の方も、何か歯並びに関してお困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。