少し前になりますが、4月7日に大阪市内にて
Dr.Gunner Heden特別講演会
歯周組織再生療法アップデート
と題された、歯周組織再生治療に関する講義を受講して参りました。
この講演会は
大阪市開業 大月基弘先生( イエテボリ大学大学院専門医課程卒業 ヨーロッパ歯周病専門医/インプラント専門医)
が主宰しておられる、『スカンジナビアンデンティストリー』というスタディーグループの活動の一環として開催されました。
午前中に基調講演として、
鹿児島大学歯周病科 白方良典 准教授による
『歯周組織再生療法を再考する』
ーCritical issues in periodontal regenerative therapyー
と題された講演が行われました。
講義内容としては
歯周基本治療(原因除去療法)や外科治療(主に切除療法)などの、従来の歯周治療および、その治癒形態、その後の合併症に関して
これまでに歯周組織再生に用いられてきた、生体材料(メンブレン、骨移植材)や生理活性物質(成長因子、エナメルマトリックスデリバティブ)に関して→再生療法において骨補填材に求められる生物学的な要件とは?(=足場;scaffoldであること、生理活性物質を除放すること)
骨内欠損における歯周組織再生療法のdecision tree(意思決定の流れ)と治療戦略
2016年から保険収載された、世界初のサイトカイン療法=リグロス(主成分;塩基性線維芽細胞増殖因子)に関して
リグロスとエムドゲインの再生治癒像の違いに関して
●リグロスは血管新生の能力が高く、既存の骨、欠損部の骨から再生が起こる。インプラント治療時の骨欠損、裂開に対して有効
●エムドゲインは歯根膜からシャーピー線維を伴った緩徐な組織再生が起こる。根面被覆に有効
等でした。また、
再生療法は外科処置であることから創傷治癒は、
⑴歯肉弁/歯槽骨の有血管性創面とセメント質側の無血管性創面とを結ぶ治癒
⑵口腔内細菌の汚染から隔離できない、つまり創傷の完全閉鎖が認められない
という特異性からその治療結果が必ずしも高いとは言えない
とも話しておられました。
午後からは、
スウェーデン イエテボリ大学の歯周病/根管治療専門医 Dr.Gunner Heden による
歯周組織再生治療の臨床、研究についての講義がありました。
歯周組織の解剖や、歯根膜(歯周靭帯)の発生に関しての話があり、ご自身が長年研究されてきた歯周組織再生治療薬(エムドゲイン)を用いた治療についてプレゼンしておられました。
具体的な内容としては、
①生体免疫反応と歯周病菌の間にある関係に注目した疾病病因論について
→インフェクションコントロールを行い、ディスバイオーシスDysbiosis (菌叢の不均衡)状態を生体の恒常性Homeostasis が保てる状態にすると歯周組織の治癒が起こる
②正しい治療のプランニングと適切なサポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)の重要性について
→歯周病患者さんをリコールシステムにおいて十分管理することで歯周病の発症はコントロールできる
③エムドゲインに関する長い臨床経験と長期症例(最長28年)についてのpresentation
→エナメルマトリックスデリバティブが細胞と歯周組織に与える影響
→歯周組織再生療法においても適切なSPT programは良好な長期予後を支えている
などでした。
上記の講義を受講して考えたことは
歯周病治療においては基礎医学的な事柄が非常に大切であり、再生療法を行うには歯科医と患者さんの信頼関係が必要条件である
そして歯周病の治癒(治癒、というよりもコントロールする、進行をslow-downさせる、と言った方が適切かもしれません)という共通のゴールに向かって歯科医と患者さんがともに頑張っていく姿勢が大切
ということです。
講演中に大月先生が仰っておられましたが、
どのような治療方針を考えたとしても、最後は患者様の意思を尊重することが大切。
そのために我々は歯周病治療、歯内療法等あらゆる方法を駆使し、少しでも残せる可能性のある歯はなんとしても残す努力をするべきである
この言葉が何よりも心に残りました。
卓越した先生方の講義、最新の知見、臨床に学び、それを自身の治療にアップデートし、明日からの臨床を頑張っていきたい、そう感じました。