これまで、歯科保険診療では金属性の材料(いわゆる銀歯)が用いられてきました。
この金属を『歯科用貴金属合金』といい、
•金合金
•金銀パラジウム合金
•銀合金
•コバルトクロム合金(主に入れ歯)
などが保険診療で使うことのできる材料でした。
『歯科用貴金属合金』は、噛み合わせの力に対抗できる強度を持ちながら、加工しやすいという利点がある一方で、
銀やパラジウム、銅、スズなどを含んでいるために、金属に過敏な方に対しては『金属アレルギー』や『掌踵嚢胞症』などの皮膚疾患を引き起こすことがわかっていました。(もちろん非金属材料としては「セラミックス」があり、審美的でかつ硬い材料ですが、高額であることから全ての方に治療をご提供出来るわけではないのが現状でした。)
また、土台として金属が使われた場合、それを削る時に出る金属粉が歯肉に入り込み、あたかも刺青のように歯茎に現れる、メタルタトゥーが特に前歯領域において問題視されてきました。
そういった生物学的な背景と、昨今の貴金属価格の高騰もあり、
近年、日本の歯科の保険診療においては、非金属材料であるCAD冠(ハイブリッドレジン)の保険適用の範囲が増えてきました。
2014年に小臼歯において初めてCAD冠が保険適用となったことを皮切りとして、
2017年に大臼歯(上顎)
2020年に大臼歯(下顎)と前歯
2022年に小臼歯 インレー(詰め物)
2023年12月にPEEK冠(第二大臼歯のみ)
2024年6月にPEEK冠(第一、第二、第三大臼歯)及び、第二大臼歯へのCAD インレー(ただし第二大臼歯の噛み合わせが両側残っていること)
が適用されてきました。
このように年々適用範囲が広がってきたことは、審美面もさることながら、金属アレルギーの予防という観点から考えて、非常に喜ばしい事と思います。
特に昨年12月より保険に認可された、上記のPEEK:ポリエーテルエーテルケトンという材料に関して詳しく述べたいと思います。
PEEKは、今までに用いられてきたハイブリッドセラミックス(CAD冠)とは一線を画す材料であり、
樹脂素材の中でもトップクラスの機能を持ったスーパーエンジニアリングプラスチックの一つです。
このPEEKは工業界ではすでに機械の部品や航空機、自動車の車体、
医科では人工血管などの医療用材料等に用いられてきた歴史があり、この度、満を持して歯科用修復材料として厚生労働省から認可が降りたという流れです。
参考文献:PEEKの臨床応用ー大臼歯部クラウンへの応用ー
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdmd/43/1/43_21-24/_article/-char/ja/
PEEKは
機械的強度、耐熱性、耐水性、耐薬品性、耐摩耗性、生体安全性に優れた樹脂素材であり、
歯冠修復材料として、化学的に安定しているため体に優しく、「硬さ」と「しなやかさ」という相反する性質を持っているため最後方の大臼歯の噛み合わせに用いても、なかなか割れない性質を持っています。
『強くてしなやか、先進的な樹脂素材』と言うことができようかと思います。
口腔内への装着時のメリット、特徴としては、
①優れた耐水性を持つこと→口腔内で水分を吸収しないため劣化しにくい
②軽量であること→従来のパラジウム合金の1/8の重量のため軽い、装着時の負担が軽減される
③衝撃吸収性があること→歯への負担が少ない
などのメリットがあります。
(株)ヤマキンのホームページhttps://www.yamakin-gold.co.jp/prdct_dental/product/peek/
より引用
現在、歯科保険治療においては単独の冠のみの適用とされていますが、
ブリッジ、インプラントの上部構造としても用いることのできる、応用性の広い材料といえます。
当院としましては、
昨年よりこのPEEKを保険の被せ物の治療に取り入れております。
ただし、透明性が決していいとは言えず、また色調も天然歯の色合いとは違うマットな白さ、になっております。
これらの欠点を補うべく、当院では(現時点では保険適用外ではありますが)PEEKを用いた前装冠、ブリッジを患者様の同意を得て作製させて頂いております。
今後もこのPEEKという素材に注目し、患者の皆様の利益につながるよう積極的に臨床応用していく予定です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
また当院では開業以来、
西宮市立中央病院(歯科口腔外科、皮膚科)
兵庫医科大学病院(歯科口腔外科)
兵庫県立尼崎総合医療センター(歯科口腔外科)
等の高次医療機関とも地域医療連携しております。
歯科金属アレルギーに関しては西宮市立中央病院皮膚科に
歯科金属パッチテストを依頼し、その結果を受けて歯科金属を除去、非金属材料での治療を行ってきました。
金属アレルギーの疑いがある方や掌蹠膿疱症と診断された方はどうぞお気軽にご相談ください。